伝統、革新、寛容。
全てを併せ持つ、刀匠の
作品と、人柄と。
日本刀、エヴァンゲリオン「ロンギヌスの槍」。
その製作に携わった三上貞直刀匠。
伝統を重んじる刀鍛冶の世界で、
柔軟に時流を受け入れ
文化の承継に力を注ぐ三上氏の技と、
気さくな人柄に触れた。
千代田インターチェンジから街中を抜けて小高い山に向けて上ったところ、森と住宅地との境に三上刀匠の鍛錬道場は建つ。車を停めると母屋から三上氏が顔を出す。挨拶をすると「こちらこそよろしく」とあふれんばかりの笑顔。鍛錬中の厳しいお顔とあまりにも違うので驚いた。 三上氏の案内で、まず母屋で話を伺った。 刀匠になった経緯、作刀への想い、近年の活動と、お話は面白く、聞けばどんどんエピソードが湧きだしてくる。ここでは大幅に割愛しなくてはならないのがとても残念だ。これまでの経歴について、要点を絞って紹介する。
野鍛冶を生業とする父親の影響もあり、高校卒業と同時にこの道に飛び込んだ。人間国宝、月山貞一刀匠の元で修行を積み、1980年に北広島町に三上貞直日本刀鍛錬道場を設立。入門から鍛錬道場設立まで、ご家族のサポートもあったそう。 その後、高松宮賞、文化庁長官賞など数々の賞を獲得。1995年、無鑑査刀匠(現代刀匠の最高位)に認定された。2022年、厳島神社所蔵の「錦包藤巻太刀」の復元。同神社に奉納したことでも話題になっている。 三上氏は全日本刀匠会会長も務めてきた巨匠でありながら、驕りがない。少し前になるが、人気アニメーション「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する「ロンギヌスの槍」を、弟子の橋本氏と制作したことをご存じだろうか。日本刀好き、はたまたアニメ好きの方なら記憶にあるだろう。制作の話が舞い込んだとき、伝統や格式を重んじ、若者離れに悩む刀剣界は、賛否が大きく分かれたそうだ。日本刀の魅力を世代を超えて共感できる場が必要と世に送り出し、注目を集めた。 「日本刀の文化、伝統を後世に伝えるのは私たちの使命」と三上氏。柔軟な発想を生かし、厄よけや子どもの成長などの願いを込めて制作されるお守り刀の展覧会の立ち上げ関与など、精力的に周知活動を続けている。 刀剣というと気後れする人も多いだろう。それを打破し、伝統を残しながらも業界を少しずつ変えていきたいと三上氏は言う。 「我々刀工の課題は後継者の確保。なり手となり手を支えてくれる人が少ない。日本刀に触れる機会を作ることで、少しでも興味を持ってもらえたら」。 長期間不在にすることも多い三上氏。三上刀匠の鍛錬道場の見学は要お問い合わせ。触れ合えば、日本刀の伝統文化をより身近に、魅力的に感じられるはずだ。
「銃砲刀剣類登録証」が交付された刀剣は、誰でも所持することが許されているが、実際に触れたことがある人は少ないのではないだろうか。国宝ともなればなおさらだ。学芸員でさえ、展示してある刀剣に易々と触ることができないと聞き、三上氏は「それじゃ日本刀の魅力は伝わらないのではないか」との思いから木材で模倣品を制作。確かに制作されたものを手に取りながら解説を聞くと、年代ごとの反りの変化や彫刻の魅力などを一層深く感じることができる。
本物の太刀や短刀も持たせてもらったが、ずっしりと重く、写真で見るよりも迫力があった。光の加減で見え方が変わる刃文も美しい。三上氏は気さくな人柄で、楽しく(脱線しながら)話してくださり、あっという間に時間が過ぎていった。
鍛錬道場は薄暗く、炎や鋼の色が映える。ふいごで炉に空気を送り込むと、鋼を熱する火床からパチパチと音を立てて舞う火の粉がオレンジ色に輝き、その光景はとても厳かで美しい。
鋼の鍛錬を体験させてもらった。「ここをめがけて、大槌を打ち下ろす。トントンと」と軽やかに話されるので、つい「簡単なのだろう」と勘違いしてしまう。しかし、体力に自信がある人にはそれほど難しくないかもしれないが、普段運動をしない者にとっては、何度も打った後、ペンを握るのも一苦労だ。それでも、この貴重な経験は間違いなく役得だった。 数回打つうちに、「これを続ければ、刀ができるのか…」と想像はどんどん膨らみ、何も変哲のないオレンジ色の鋼にも特別な愛着が生まれた。
三上貞直日本刀鍛錬道場
〒731–1533 広島県山県郡北広島町有田367
TEL:0826‐72‐4367
メールアドレス:kajiya3@nethome.ne.jp
facebook:三上高慶
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