我が町自慢の神楽幕。
白、黒、藍、紺、朱…
色鮮やかで、威風堂々。

北海道から九州まで、その土地の人々に
受け継がれてきた神事芸能「神楽」。
厳かで、華やかで、観る者を魅了する。
その舞いと同様に目を引くのが、神楽幕。
独自性を生み出すには、職人の
手仕事と、感性と、心意気が肝要と気付く。

ここは、神楽幕を制作する「豊栄堂」の染工場兼事務所。入り口では青空に映える幟がはためき、訪れる者の気分を高揚させる。さて、お邪魔する前に、神楽について簡単に紹介しよう。 神楽とは、神前に奉納する舞楽のことで、北広島町に伝わる神楽は「芸北神楽」として知られている。地域の人々に受け継がれてきたこの民俗芸能は、大太鼓、小太鼓、笛などの囃子に合わせ、華やかな衣装と神楽面を身に付けた人々が舞う。

北広島町では、テンポが緩やかな「旧舞」を継承するものと、スピード感ある「新舞」の二つのスタイルがあり、現在、約70もの神楽団がある、全国屈指の神楽の盛んな地域なのだ。 そしてここで紹介する「神楽幕」は舞台に張るための幕で、芸北神楽では布を染料で染めて仕上げる「染幕」が主流となる。豊栄堂では、フリーハンドで防染糊を生地に塗って色によって染め分ける筒描と、型を使って生地に防染糊を置いて染め分ける型染という伝統手法を取っている。神楽幕は主に筒描で制作される。代表の小野遥平氏の作品は、龍神や虎、鷲など力強い姿や、美しい日本の四季を表現したものなどがある。「神楽幕は、依頼主の意向に沿った一点物です。抽象的な言葉を元に描くのは難しい作業になりますが、これまでの経験と、神楽と共に歩んできたからこそ汲み取れるニュアンスがあるのかもしれませんね」と小野氏は語る。 豊栄堂では神楽幕以外にも、幟、のれん、袢天なども制作しており、特に神社幟には深い思い入れがある。神社幟は、神様を迎える目印とされ、古くから氏子や参拝者が奉納する伝統がある。しかし今、こうした伝統文化が途切れそうなのだ。 「将来的には伝承を目的に、神社で子どもたちに神社幟の染色体験をしたいと考えています。楽しい思い出が心に残ると、年齢を重ねても鮮明に思い出せると思います。また、染色に使う防染糊には、米や水、塩など、神社に奉納されるものが含まれているため、こうした神社への敬意や感謝の気持ちも一緒に伝えられたらうれしいですね」 さらに、ベレンス染料を使用するなど、染め文化の継承にも注力しているそう。「いいと思うものは残したい」と語る小野氏。その笑顔に、内に秘めた熱い情熱を感じた。

 匠の技を体験。

染色技法について改めて触れてみたい。染色には、植物を煮出した液で染める草木染、筆で布の表面に模様を描く手描き染めなどさまざまな方法がある。 筒描は、スタンプのように布の上に色を載せていくのではなく、先に染めたくない部分に糊を置いて模様として染め抜く(地色を残す)方法だ。自由度が高く、ダイナミックな構図で描くことができるので、神楽幕などオリジナルの一点物に最適だ。描く線の動き一つで、力強さ、生命力を感じさせることができる。
小野氏の制作した神楽幕は、神楽師(神楽を舞う人)を引き立てることはもちろん、日本の伝統的な色合いで絵画のような奥行きが感じられる深みのある作品だ。これこそ、神楽を深く理解する職人の技が生み出す独特の表現といえる。

日本伝統の染色、古くて新しい手仕事。

デジタル技術が主流となった現代、AIやIoTなどの普及により、時間や手間のかかるアナログは減少し、絶滅危惧種のような扱いを受けつつある。30年前は、わからないことを調べるために図書館で書籍を探すのが一般的だったが、今ではスマートフォンで数秒以内に答えを得られる。この便利さはもはや欠かせない。
一方で、アナログには触り心地や迫力、そして人の心を感じさせる魅力が詰まっている。しかし、放っておけば注目されず、やがて消えてしまう可能性もある。こうした中、小野氏は「染色」という伝統的な技術を守り広めるための取り組みを模索している。手作業が中心の業務ゆえに時間の確保は難しいものの、彼の語る夢には、その実現を信じさせる力があった。

 

有限会社豊栄堂染工場

〒731-1222 広島県山県郡北広島町阿坂1732
TEL:0826‐84‐0414 FAX:0826‐84‐0419
メールアドレス:houeidou@khiro.jp
WEB:https://www.houeidou-dye.com/

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